今回の【出張レポ-ト 2024春♯1】ドメーヌ・シルヴァン・ブジコット編では、ドメーヌ・シルヴァン・ブジコットが日本市場に向けてどのような戦略を展開しているか、その背景とワインの特徴をじっくりとお伺いした内容をお届けいたします!
ピュリニィらしいワインの造り手 ドメーヌ・シルヴァン・ブジコット
ドメーヌ・シルヴァン・ブジコットは、コート・ド・ボーヌの白ワインの中心地、ピュリニィ=モンラシェでワイン造りを行う生産者です。
ピュリニィらしいシャープで溌剌とした酸に加え、豊かな果実味が心地よい素直なワイン造りが特徴で、高騰するピュリニィのワインが知名度の低さから良心的な価格で手に入るのがポイントです。基本的には若いうちから楽しめるフルーティなスタイルにピュリニィらしいミネラル感を兼ね備えているのが持ち味です。
ピュリニィを中心としたワインの魅力
試飲はブルゴーニュ・ブランからスタートしました。樽発酵・樽熟成とステンレスタンク発酵・熟成をそれぞれブレンドして作っているとのことで、伝統的ないわゆる樽熟成からくるニュアンスに、フレッシュな果実味が加わった溌剌としたスタイルが特徴です。
続くサン・トーバンはラベルに記載こそしていないものの、サントーバンの西部の奥地にあるル・バンの区画のブドウを使用しているとのことでした。若干のバタリーな香りと溌剌とした果実味にミネラル感のあるほろ苦い余韻が絶妙に調和しています。ミネラル感がでやすいル・バンのテロワールがまさしく表現されていました。若いうちから楽しめる果実味豊かなワインで、ピュリニィの生産者らしい味わいで品質の高さを物語っています。
続いてマランジュ側の高台にあるサントネ ル・シェネは、キレイな樽熟成のニュアンスと凝縮感ある果実味が印象的。サン・トーバンに比べて控えめでやや内向的ながらもポテンシャルの高さを秘めており、数年の熟成を経て真価が開花しそうです。
区画名のないピュリニィの村名格は、まさしくピュリニィらしいやせたスタイルでありながら、ピュリニィとしてはいささか果実味が強めに感じられるのは、フルーティなニュアンスを残すため圧搾果汁の3割ほどをステンレス発酵・熟成させていることに由来します。単独キュヴェのルーセルは、一級ルフェールとペリエールの境の下部に位置する畑で、区画名なしの村名格とくらべると明らかに凝縮感のある味わいでコストパフォーマンスの良さも光ります。
一級畑ペリエールとフォラティエール
特に希少なのは一級畑のペリエールで、生産量は年間4樽です。ペリエールは採石場の跡地に由来する名で、砂利質の土壌がワインに独特の個性を与えています。またフォラティエールはペリエールと比べて粘土質がやや強く、ふくよかで厚みのある味わいです。こちらは年間約2500本の生産量です。
広域アペラシオンから一級まで全体で約16haの畑を所有し、ブルゴーニュとしては広い畑を持っており、比較的大きな規模の生産者にあたります。ムルソーやサン・トーバン、シャサーニュのワインはラインナップ拡充のために知り合いの生産者とのブドウの交換により得たネゴシアンキュヴェで、これらもドメーヌの多様なラインナップを支えています。
厚みと力強さを備えた南部のシャサーニュ・モルジョ
シャサーニュ一級モルジョは、南部の粘土質土壌からくる厚みと力強さが際立ち、かつて赤ワインの方が高く評価されていた歴史を感じさせます。ムルソーやシャサーニュのワインはピュリニィに比べて厚みがありつつも、他生産者と比べるとシャープでピュリニィの生産者らしいスタイルが貫かれています。
伝統を継承する家族経営と直販スタイル
写真はシルヴァン氏
父親のシルヴァンから代替わりはしたものの、まだまだお元気でワイン造りにも参加しておられ、まさしく家族経営として力を合わせてワイン造りを行っています。大きな企業体としてワイン造りを行うボルドーやシャンパーニュと違い、あくまでも農家のワイン造りが今なお続いているのがブルゴーニュの最大の特徴であり、これは、リーズナブルなワインをつくるところから、スター生産者まで品質の別によりません。
ドメーヌ・シルヴァン・ブジコットでは、ホームページや広告もなく、昔からの個人客による直接販売が主流ですが、販売面の不安はないといいます。かつてはブルゴーニュではこうした直販スタイルが多く見られましたが、需要の増加や訪問希望の増加により徐々に難しくなっているのが実情です。シャンボール村にはシャトー・ド・シャンボール(ジャック=フレデリック・ミュニエ)による直販の古い広告も残っていますが、残念ながら今となってはドメーヌを尋ねても売ってもらえることはないでしょう。
新設の醸造所と軽やかな赤ワインの魅力
醸造所はピュリニィ村域内で、旧国道を挟んだ東側に新設されました。白の試飲は本宅のカーヴで、赤は新醸造所で樽ごとにじっくりと試飲しました。ブルゴーニュ・ルージュはフレッシュでチャーミングな果実味が魅力で、白の名手が造る赤ワインならではの軽やかでモダンなスタイルが印象的でした。5-6日の定温浸漬の後、アルコール発酵を行い、全量を樽熟成する、というのがブジコットのスタイルです。新樽比率は1/3で、過度な新樽のニュアンスが付かないようにバランスを取っているとのことでした。
オーセイ=デュレス村名格は石灰質の強いオーセイらしい特徴を持ちながらも、透明感と軽やかさが心地よく、一方モンテリ一級シャン・フュリオはムルソーからヴォルネにかけての石灰岩の台地上にありながらも、上部のスュル・ラ・ヴェルやさらにその上から流れてきた粘土質土壌がこの平坦な台地上に滞留するためか、岩盤こそ石灰岩の暑い層があるとされる一方表土は比較的粘土質土壌で特徴敵な華やかな香味と柔らかなタンニンの印象が強く、それぞれのテロワールの個性が色濃く感じられました。
今回の訪問を通じて、ドメーヌ・シルヴァン・ブジコットが伝統を守りつつ、現代の市場環境に柔軟に対応しながらコストパフォーマンスに優れ、またテロワールが見事に表現されたワインを生み出していることを強く感じました。これからも注目の生産者として、ぜひお見逃しなく。
>>>次回は【出張レポート 2024春♯2】 ドメーヌ・フルーロ=ラローズの歴史と魅力編 をお届けいたします。どうぞお楽しみに!
(出張レポート:川﨑大志 編集:WineBank )