【出張レポ】シャンパーニュ編#4

シャンパーニュ出張レポート最終回は歴史ある名門シャンパーニュ・メゾン、
「アンリ・ジロー」への訪問についてお届けします。

アンリ・ジロー

家族経営のメゾン・アンリ・ジローは、先代のクロード・ジロー氏が引退して、現在13代目のエマニュエル・ジロー氏がドメーヌを運営しています。

ピノ・ノワールの栽培比率が高い

グラン・クリュの指定を受けたアイ村のドメーヌの向かいには、石灰岩を中心とした丘陵に広がる畑があり、ピノ・ノワールが8割ほど、シャルドネも2割ほど植えられています。

ルイ王の時代から、すなわち泡が作られるよりも前から赤ワインの生産の伝統があるのがこの地域の特徴だといいます。

発泡性のシャンパーニュが生まれる前のシャンパーニュ地方は、スティルワインの生産が中心で、寒い冬の間に発酵が途中で止まり、発酵が終了したと思って瓶詰したところ、春先に温度が上がるとともに瓶内で再発行が始まり、瓶が破裂するという事故がおこるなど、発泡に悩まされてきた歴史があります。

木樽へのこだわり

2016年以来、ステンレスタンクでの発酵をすべてやめ、全量をアルゴンヌの森のオーク樽の小樽での発酵に切り替えています。

先代のクロード・ジロー氏が、70代を過ぎてから、最良の方法は木樽での発酵であると確信し、ステンレスタンクから木樽に変更された経緯があります。

アルゴンヌの森

アルゴンヌの森はマルヌ県の県庁所在地でもあるシャロン・アン・シャンパーニュとヴォージュ山脈の中間に位置します。

クロード・ジロー氏は、ブドウ畑にテロワールがあるのと同様、森にもテロワールがあると考えます。

アルゴンヌの森は、非常にやせた土壌のため、生育に時間がかかり、木目の細かい木材を生産できることすが特徴でといいます。

樹齢の割に幹は細く、年輪間は詰まっており頑丈なため、船のマストのような大きな応力がかかるものに使われてきました。

ワインに合わせた木材の選択

写真は樹齢200年ほどのオークの幹ですが、この細さで樹齢200年というので驚きです。

セラーマスターのセバスチャン氏が、アルゴンヌの森の中の10区画ほどのトレーサビリティを確保し、それぞれの区画を個性に合わせて使い分けているといいます。例えば、森の南側にあるというシャトリスの区画は酸に寄与し、北側で粘土質なシャラードの区画は、まろやかさや果実味に貢献します。

こうした豊かな森の存在が良いワイン造りを左右するという考えから、メゾン・アンリ・ジローでは、このアルゴンヌの森を守ることに注力しています。

こうして、セバスチャン氏が毎年ワインの特徴に合わせて樽の使い分けを行い、また、複数の樽を使うことによって、ブレンド後により複雑味のあるワインを造ることができるわけです。

樽年数へのこだわり

樽の香りをつけるために樽を使用するのではなく、アイ村のブドウ畑の個性が出るようにするというのが樽発行の目的のため、新樽ではなく

6-7年樽を使用しています。

6-7回使用された樽については、主にラタフィアの生産に用いられるほか、かつては、季の美のジンの熟成に用いられたこともあります。

ワイン醸造

生産量

収穫果の圧搾後は、圧搾果汁をダイレクトに樽に入れ、7-10か月間かけて発酵させたのち、そのまま樽熟成を行うといいます。

2022年の生産量はなんと1300樽分とのことで、なかなかの豊作だったことがうかがえます。熟成庫の中は、4段に積まれた樽でいっぱいでした。

卵型の熟成タンク

奥には、卵型のオブジェが並んでいました。これはダーム・ド・ジャンヌ用の熟成に用いられるテラコッタのタンクなのだといいます。カラフルに彩られているのは、単にデザインのためではなく、テラコッタの内外に釉薬を塗って焼成することにより、酸素とのコンタクトを遮断する効果があるため、実験的にいくつか採用しているとのことでした。

卵型をしているのは、発酵によって出る二酸化炭素がタンク内のワイン液に対流を生み、澱を舞わせ、酵母の自己消化による抽出を促す役割があるといいます。こうした卵型のタンクを採用しているのはいくつかの生産者で見たことがあります。生命の源でもある卵の形が、対流を最もスムーズにし、また、生命のエネルギーを封じ込めるのに最適なのだ、という解説がよく聞かれます。

地中に埋めたステンレスタンク

このほか、地中に埋めたステンレスタンクがあり、こちらは、近くを流れるマルヌ川の地下水の影響もあり、冷却をせずとも結果として冷却効果があり、エコなのだといいます。

このタンクは、1990年からリザーヴワインをつぎ足しながら使用しており、ある種のソレラシステムのような貯蔵を行っています。

ワインテイスティング

一通りの醸造所見学が終わり、試飲へ。

フュ・ド・シェーヌ(MV18 )

看板キュヴェ「フュ・ド・シェーヌ(MV18 )」から試飲が始まります。

2/3がリザーヴワイン(※1)、1/3がミレジム(※2)のワインが使われており、4年間の瓶熟成を経てリリースされるとのことです。

黄金色よりももう少し色調の濃いシャンパーニュは高級感があふれています。

一般的にはスタンダード・キュヴェから初めて徐々に格上のものを試飲するのが通例ですが、それをあえて看板ワインから始めるというのは、醸造所見学の解説の集大成であり、より複雑な味わいをまっさらな状態で感じてもらいたいのだといいます。

※1) リサーヴワイン(Reserve wine)とは、前の年に造った、後のブレンド用に取っておいたワインのこと。シャンパーニュでは品質の安定化のためにこうしたリザーヴワインをブレンドに活用します。

※2) シャンパーニュではヴィンテージを記載せず、様々なヴィンテージワインをブレンドすることが多いですが、良年のヴィンテージワインには年を記載し明示します。そのヴィンテージワインのことをフランス語で「ミレジメ」と言います。

エスプリ・ナチュール

よりフレッシュ感のあるスタイルで、より親しみやすいワインというコンセプトで作られたシャンパーニュです。

4~5回樽を用いて樽の香味は付けずに樽発行・樽熟成のニュアンスだけを適度に引き出したのが特徴で、現行品については2020年のワインをベースに作られています。

キレの良い酸とフレッシュ感が心地よく、バランスは良好です。

入門編でありながら、フュ・ド・シェーヌの後でも恥じないものを作っているという、メゾンのプライドを感じるワインです。

オマージュ・オ・ピノ・ノワール

ブドウ品種はピノ・ノワールのみを使用。ピノ・ノワールらしい力強い味わいに華やかな香りが、完成度の高さを物語っています。

ピノ・ノワールの評価の高いアイ村の個性を存分に表現した自信作です。

ラタフィア

ラタフィアとは圧搾したブドウ果汁にアルコールを加えて強制的に発酵を止め、甘口に仕上げたシャンパーニュの隠れた伝統的酒類です。

甘い食後酒としても有名なラタフィア。この甘みはブドウ由来の甘味であって、一切の加糖をしていないのだと知ったら驚く人は多いでしょう。

アルコール発酵により13度ほどのアルコール分を得るブドウ果汁というのは、実は一般的なぶどうジュースをはるかに超える甘さなのは、あまり知られていないかもしれません。

発酵による変化の余地がない分、元のブドウの状態が良くないとうまくできない一品です。

アンリ・ジローの宿泊施設

こうした刺激的なドメーヌ見学をさせてくださったメゾン・アンリ・ジローは、現在居心地の良い貸別荘も行っているようです。

エペルネー界隈にはあまりいいホテルがないなか、洗練された宿泊施設を提供していること、また、宿泊者には、ドメーヌ見学がサーヴィスになるとのことですので、シャンパーニュを訪問される方は、こちらの貸別荘を利用されるとお楽しみいただけるかもしれません。

まとめ

以上、出張レポート<シャンパーニュ編>を4回に分けてお届けしました。