【出張レポ】シャンパーニュ編#3
今回のシャンパーニュ出張レポートは「メゾン・モーリス・グルミエ」の訪問についてお届けします。
目次
メゾン・モーリス・グルミエ
エペルネの大手メゾン、ビュルタンを出てマルヌ渓谷に沿って西に進めば、ランス山地の南側斜面に広がる畑がシャトー・ティエリーを越え、サースィ・スュル・マルヌに至るまで、約60kmほどブドウ畑が続いています。
東側もトゥール・スュル・マルヌまで20kmほどブドウ畑が続いていますので、約80kmにわたって、ブドウ畑が同地区内で続いています。
評価が高い村はヴァレ・ド・ラ・マルヌ(マルヌ渓谷)地区の東側に集中しており、アイ=シャンパーニュやトゥール・スュル・マルヌなどのグラン・クリュ村やプルミエ・クリュの村の多くが位置しています。
メゾン・モーリス・グルミエの歴史
「メゾン・モーリス・グルミエ」に到着すると、ファビアン氏が出迎えてくださいました。
畑の説明を頂く前に、さっそく、ドメーヌの歴史を教えてくださいました。
ブドウ栽培の歴史は大変に古く、1743年にはヴァントゥイユや隣村のダムリーの両村で、ブドウ栽培を行っていた記録が残っているのだそう。
それまでは、ネゴスにブドウを売っていたのに対し、自家でシャンパーニュ造りを始めたのは1928年、ひいおじいさんのアマン氏の時代でした。
第二次世界大戦後、2ヘクタールの畑を相続した息子のモーリス氏が、メゾン・モーリス・グルミエを立ち上げます。
現在ドメーヌを切り盛りしているファビアン氏は4代目に当たるそうですが、ブドウ栽培に広げれば、なんと12代目にあたるというので驚きです。
ブドウの栽培環境
ドメーヌから歩いてまもなくの畑を紹介してくださいました。
ボルドーではブドウはすでに随分成長していましたが、フランス最北のブドウ産地で気温が低いシャンパーニュでは、ブドウはまだ芽が出たばかりです。
そんな中ブドウの芽を見せてくださったファビア氏の傷だらけの手は、熱心な畑仕事の様子を物語っています。
栽培のこだわり
除草剤は一切使わず、畝間には草が残っています。垣根仕立てに仕立てたブドウ樹のそばには草がなく、土がふかふかしていますので、おそらくは鋤き返したのでしょう。
ファビアン氏も、生物多様性を重視した栽培に切り替え、より自然と一体化すべくブドウ栽培を行っていると強調します。
「その結果、収量は多少下がってしまった側面もありますが、品質を優先したいんです」
マルヌ渓谷に向かう南向き斜面は、日照にも恵まれ、水はけもよさそうな見事な畑でした。上に凸の斜面を見るに、下には石灰岩の母岩が広がっている石灰土壌なのでしょう。
来週には、抜根した部分への苗木を植える作業をするんだ、と、帰り際に苗木を見せてくださいました。
醸造所
醸造所に入ると、大きなステンレスタンクが並んでいます。醸造に使われるほか、ブレンドにも用いられるものです。タンクには、美しいブドウの絵が描かれており、友人の芸術家によるデザインなのだと紹介してくれました。ステンレスタンクで醸造されるもののほかは、各区画・各品種をそれぞれ圧搾後、個別に小樽発酵し、そのまま樽熟成されます。
樽発酵の割合は比較的多く、年によってはバトナ―ジュ(※)も行うといいます。
※バトナージュとは、樽の中で熟成中のワインをかき混ぜる作業のこと。熟成過程でワインから発生する澱が樽の底に溜まので、これを攪拌し、澱(酵母)とワインの接触を促進し、酵母に含まれるアミノ酸などの旨味成分をワインに移す方法。
熟成庫
熟成庫には、小樽発酵から樽熟成へのすすめられる樽がラックに三段重ねられています。百近くはあるでしょうか。
「フードル」という大樽は4つあり、うち二つは、「ヴァン・ド・レゼルヴ」と呼ばれるリザーヴワインの貯蔵に、残る二つは、毎年ワインをつぎ足して保管するのに使われています。
フランス国内でも最北の生産地でもあるシャンパーニュでは、黒ブドウの色づきが不十分になったり、日照量の不足や、霜害等から、年によってはワインの生産のない年があるほど寒冷な産地です。そうした気候上のトラブルを避けるため、毎年、一定量のワインを翌年以降に残しておく習慣があり、このワインのことを「ヴァン・ド・レゼルヴ」と呼んでいます。この「ヴァン・ド・レゼルヴ」があるおかげで、日照に恵まれずブドウが不作となった場合であっても、ブレンドによってバランスを取り、毎年のシャンパーニュの製造ができるという利点があります。このブレンドの技術を大成させた人物こそが、高級シャンパーニュの名前にもなっているドン・ペリニョン氏です。
貯蔵庫
貯蔵庫には動瓶機が置かれています。木製の籠のまま動瓶機にかけられるようです。これまで見た動瓶機は、金属製のケージばかりでしたので、興味深い光景でした。
醸造所の隅にはデゴルジュマン用の機材がでていました。-32℃にしたグリコールに逆さにしたボトルの首をつけ、先端にたまった澱をワインと一緒に凍結させてはじきだすのがデゴルジュマンです。このデゴルジュマンが終わると、キュヴェに合わせてドザージュ(補糖)し、打栓をすればシャンパーニュの完成です。
ワインテイスティング
一通りの醸造所と熟成庫の説明をいただいたところで、テイスティングルームに移ります。
オー・マ・ヴァレ
「オー・マ・ヴァレ」はドメーヌのスタンダード・キュヴェです。
ブリュットとエクストラ・ブリュットを中心に、若干量のドゥミ・セックを作っているようです。味わいは、キリっとした酸と、ふくよかな果実味のバランスが良く、品質が安定しています。
レゼルヴ・ペルペチュエル
現状当社では取り扱いのなかったキュヴェとして、レゼルヴ・ペルペチュエル」を試飲させて頂きました。
原液の40%には「ソレラ」という年々ワインをつぎ足したものをつかっているのだとのことです。
シャルドネ由来のキレの良い酸があり、アフターのふくよかさもより深まった上級キュヴェです。
アンスタン・ナチュール
「アンスタン・ナチュール」は原液自体は「レゼルヴ・ペルペチュエル」と同じ構成ですが、違いがあります。
ドザージュをしていないこと、瓶内熟成期間がより長いこと(レゼルヴ・ペルペチュエルは3年熟成、アンスタン・ナチュールは5年)
瓶内熟成が長い分、この後に来るミレジメ、ピエール・プラートを思わせる熟成感があり、大変素晴らしい出来栄えです。
プラット・ピエール
こちらはミレジメ(ヴィンテージワイン)で、2015年ヴィンテージです。
ブドウ品種はシャルドネとピノ・ノワールを半々ずつ使い、ヴァントゥイユの中腹から下部にかけての区画に植えています。味わいは上品な樽のニュアンスと、かすかな熟成感が心地よい、プレスティージュ・キュヴェのひとつです。
キュヴェ・アマン
ひいおじい様へのオマージュとして名付けられた、「キュヴェ・アマン」の2012年ヴィンテージ。ラベルには、アマン氏のトレードマークである口髭が描かれています。
参考までに、と出してくれた一週間前に開けたボトルでしたが、抜栓後長い時間がたったとは思えないほど高いポテンシャルを持っていました。キュヴェ・アマンについては10年も瓶熟成をさせるそうです。
ソレラ
プレスティージュ・キュヴェの「ソレラ」。
ソレラという名前はワイン液を毎年つぎ足していく「ソレラシステム」という方法から来ています。このつぎ足し法を用いると、酸化のニュアンスが出る傾向にありますが、こちらのワインはそのニュアンスがあるわけではなく、フレッシュで溌剌としてたが印象的でした。
フードルの「ソレラ」をさらに一年樽熟成させたスペシャル・キュヴェだとファビアン氏は語ります。
おそらくは樽由来と思われるヴァニラのニュアンスがアクセントとなった、バランスの良いキュヴェです。
近年のシャンパーニュ事情
テイスティングが一通り終わると、直近のシャンパーニュのお話を伺えました。
平時の年間生産量は8万本から8.5万本ほどとのことでしたが、2020年は、シャンパーニュ委員会より、生産量調整が入ったのに加え、2021年は病害の影響もあり、収量が伸びず、あと2-3年は生産量の少ない状態が続く見込みとのことです。
そんな生産減が続く中でも、毎年の割り当て分については、なんとか極力同じ量を確保できるようにがんばりますね、と言ってくださるところに、人情の厚さを感じました。
≫次回、出張レポート「シャンパーニュ#4」へ続く
(出張レポート:川崎 大志 / 編集:池田 眞琳)